『さらば愛しき女よ』 レイモンド・チャンドラー

 フィリップ・マーロウみたいな男になるんだもん。
 よくよく考えればそれもどうかと思うのだけどそんな風に思ったのも事実で今でも彼のようなダメ中年に憧れていたりする。ダメっつっても心底ダメなわけじゃないのだが。
 で、憧れている割には『長いお別れ』という定番中の定番しか読んだことがないのでちょっと集中的にマーロウ・シリーズ読んじまおうかねということで本作を読んだ。これシリーズの二作目らしいのだが一作目は行った図書館になかったのだ。まあ順番なぞどうでもよろしい。
 そんなん何読んでも面白いに決まっちょるだろうがあ。と、ネゴシックス風に心が叫んでいるのだ。
 『長いお別れ』にある「ギムレットにはまだはやすぎるね」(うろ覚えだが)というようなクラクラきてしまう名文句こそ見つからなかったものの、本作においてもマーロウは変わらず渋い。金もなく特に腕っ節が強いわけでもなく酒におぼれているようなきっとこ汚い中年なのだが、己を律するのは己のみ、といった筋の通った不器用な生き様が沁みる。同じダメでもこうありたいもんだ。
 どうしたものか女にモテている、というのが若干引っかかるのだが、それはただの僻みである。はあ。

 さらば愛しき女よ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-2))