『プリズンホテル』 浅田次郎

 浅田次郎といえば云わずと知れた人気作家である。ですよね?
 まあそんな程度の認識しか持ち合わせていないオレでして、読んだものは『殺られてたまるか』シリーズくらい。これは浅田氏が小説家としてデビューする以前の若かりし頃、悪事を働いていた時分のエピソードを綴ったエッセイでありまして、これがべらぼうに面白い。なわけでここにきっちり、浅田次郎=チンピラ作家、という等式が脳内で構成されまして、『ぽっぽや』浅田次郎、とかいわれてもこっちの浅田次郎とそっちの浅田次郎は別物のように感じられ、今日に至るまで著者の小説は読んでこなかったわけ。
 でぼちぼち読んでみるかねということになりじゃあ何をとなればやはりチンピラ風味は外せないわなあと『プリズンホテル』を手にとったという次第。これが極道小説ということは知っていたからね。

 小説家の唯一の血縁はおじである極道の親分。父親は亡くなり、母親は男と逃げてしまった。そのおじがなんとこの度ホテルを経営することになりましたと。一般ホテルには敬遠されるワケアリもの(主に極道)に大人気ということで人呼んでプリズンホテル。そこで繰り広げられる人間模様。

 ”笑えて泣ける”というのも頷ける。
 これは、とても、よく、できて、いる。
 型通りというのでしょうか、とにかく、読んでて安心安心。
 まあ”笑えも泣けも”しなかったけどね。そもそも小説を読んで泣くなんてことはちょっと記憶にないからな。んん。”泣ける”と”泣く”は違うのかやっぱり。でもでも著名人のコメントなんかで”涙がとまりませんでした”とかよくあるしなあ。これは”泣いた”ってことだろう。となるとオレは鈍いのかね。漫画読んで泣くことはあるってことはなんだ想像力が貧困ってことなのか。
 とまあね。笑えも泣けもしなかったけどこれは面白いよ。暇つぶしにはもってこいだ。というくらいには。