『ボトムズ』J・R・ランズデール

 田舎を舞台にした少年のプチ冒険物語。なんかを読んだり観たりするといっちょまえに郷愁を感じたりするのだけど、はて、僕は田舎暮らしなど経験したことのない生粋のシティボーイなんだがどういうことであるのか。

 この小説を読んでそんな風に思った。度々思うことなのだけど。

 映画『スタンド・バイ・ミー』を観てもそう。僕は日本人で都会っ子で自然とはそれほど縁がなく線路の上を延々歩いたこともないし挙句に死体を見つけたこともない。でもノスタルジー
 もしかしてこの郷愁と思い込んでいるものは全然別のなにかなのかもしれない。例えば憧れとか。あくまで例えね。

 どこかで読んだのだけど、今作にマキャモンの『少年時代』とかキングの『スタンド・バイ・ミー』と似た感覚を感じたり感じなかったりする、とかなんとか。どちらも読んだことがないのであれなんだけどなるほどそんな気がする。読んだことがないけど。少なくとも映画『スタンド・バイ・ミー』の情景を思い浮かべながら読んでいたことは確かだ。すでに読後数日経過している今となってはその記憶にもあまり自信がないのだがまあどうでもいい。

 とにかくなんか懐かしいものを感じさせてくれる話なわけだ。というか僕はそう感じたわけだ。

 1930年代のアメリカ、テキサス東部が舞台。12歳の少年ハリーは治安官で理髪師の父、母、妹、犬、あとから祖母と湿地帯(ボトムズ)そばの森に暮らしている。ある時ハリーとトム(妹)は森の中に迷い込み縛られ切り裂かれた黒人女性の全裸死体を発見する。そしてその帰路、ゴート・マン(頭が羊で体は人間)に遭遇する。連続する黒人女性殺害。犯人は誰なのか。ゴート・マンなのか。ゴート・マンは何者なのか。

 ランズデールというと”ハップ&レナード”シリーズのろくでなし加減が大好物の僕なのであるが、今作はごくまっとうな物語である。ミステリとしてはストレート過ぎて驚きは薄いのだけどストーリーは上出来で充分堪能できる。キワモノ作家かと思ってたんだけどこんなのも描けるとは手練れだわこりゃ。ノッキング・オン・大人の扉、な少年の目に映る家族、自然、街。差別、諦め、弱さ。純粋さというよりは、これから純粋さを失っていくだろう少年を思うと切なくて切ない。

 以上、悲しみもパンツもなにもかも汚れちまった男の戯言。うんこ。

ボトムズ (ハヤカワ・ノヴェルズ)