『奇術師』クリストファー・プリースト

 幻想文学大賞受賞、ということらしい。
 ふーん。
 で、幻想文学って何?

 なぜ自分がこの本を読もうと思ったのか今となっては謎なのだけど、とにかく読んだ。ガーッと一気読み。一気読みできるくらいに面白いということなのだろう。まあ僕はミステリ好きだしね。謎が解き明かされる過程で、まだかー、ってなってるのが好きなのだ。ただこの小説にはひとつ問題があってね。それは、

 ミステリじゃない、ってことだ(少なくとも僕の馴染みのあるミステリではない)。

 SFじゃねえかコレ。ナイフとフォークを両手に持ってテーブルをドンドンリズミカルに叩きながら、「はやくっ、はやくっ」って、満面の笑みを浮かべて待っていたというのに、何も出てこなかったしょぼん。謎なんてなかったのだ。

 これは、”瞬間移動”という奇術を得意とする二人の敵対する奇術師の話なんだけど、こちらとしては、その”瞬間移動”がいかなるトリックで為されるか、というところにミステリを感じていたわけで、”瞬間移動”を使って殺人事件が起こっちゃうんだろう、と勝手ながら思っていたのだけど、”瞬間移動”はSF的手法であっさり達成されてしまうのであった。ええっ。驚きを隠せない僕。それでもきっとなにかどんでん返し的なものがこの先あるんだろうと気を取り直して読んだのだが、その謎であったかに見えた全てが全て、SFだからね、という言葉に収束していくのであった。ああ。そうなんだ。科学者が出てきた辺りから怪しかったんだ。半透明人間が出てくるところでもう間違いなかったんだ。読み終わってはじめて気付いた。なるほど、これはミステリじゃなく幻想文学だったのかと。

 というわけで読み方を間違えた。面白いと云ってもいい内容だったけど、こうなってしまってはどうにも消化不良である。どうしてくれるんだ。読み直すには分厚いじゃねえか。

〈プラチナファンタジイ〉 奇術師 (ハヤカワ文庫 FT)