ヤン・マーテル「パイの物語」

実際、少年と動物との交流、および漂流記ものということで、本書をキプリングの「ジャングル・ブック」とゴールディングの「蝿の王」との融合と見なす評価もある。なかには、そのニ作品に、作者と同じ現代カナダ作家ティモシー・フィンドレイの「NOT WANTED ON THE VOYAGE」(一九八四年)を付け加える書評家もいる。ちなみに、その作品は、ノアの箱舟ポストモダン風に語りなおした寓話的長編である。

と解説にある。

つまりこの物語は、少年と動物との交流、および漂流記ものではあるが、ノアの箱舟ポストモダン風に語りなおした寓話的長編ではないということだ。僕としては、それを期待していたんだけど。
でもまあ面白かった、と云えなくもない。主人公パイの生い立ち、宗教観が語られる第一部こそ助長に感じられたものの、いざ漂流、という第二部は読ませる。ほぼ大海原にポツリと浮かぶ救命ボートのみを舞台に展開されるのだけど、飽きがこない。といっても特にどうということもないような気もするけど。この小説の肝は第三部だろう。救助されたパイと調査員とのやりとりがおかしい。この第三部により、ありがちな冒険ものからそうではない別の物語に生まれ変わっている。ブッカー賞だけはある。でも気の短い人には勧められない。