世界三大くそ美味料理の一つである麻婆豆腐(後の二つはしばらく考えさせておくれ。オムライスは入るかな)。しごくポピュラーな食べ物だが、君が食べているそれは本当に麻婆豆腐なのかい。真実を伝えるならばそれはNOだ。それは麻婆おこちゃま豆腐だ。真の麻婆豆腐とは、和気藹々と家族で摘めるような代物ではない。それは挑戦であり、戦いなのだ。君らの食べているそれを麻婆豆腐などというのなら、真のそれは麻婆ハードボイルド豆腐と呼ばねばならないだろう。いや、決して固ゆでしてあるわけではないのであしからず。

中国は成都陳麻婆豆腐店。
麻婆豆腐の元祖と云われる店だ。悟りを開かんとチベットに赴こうとしていた僕は、飛行機待ちのためしばし成都に滞在することになった。成都についてなどなんの知識も持ち合わせていなかったが、同部屋の日本人留学生A君によると以下のようなものが有名であるらしかった。

    • パンダ
    • 坦々麺
    • 火鍋
    • 麻婆豆腐

生粋の麻婆豆腐istである僕にとって最後のことばだけが燦然と光り輝いて眼前を照らした。なぜか渋るA君を置いて単身乗り込むことにする。待ってろ陳婆さん。その店の麻婆豆腐は全部オレんだぜ。元祖なんていうからどんな古びた店かと思ったら、広くて小奇麗な店だった。二号店もあるということだったからそっちに来たのかもしれない。席についてメニューを凝視する。ほう、あるある麻婆豆腐ちゃん。ほかにも青椒肉絲と卵のスープ、当然ライスを注文する(麻婆豆腐と白飯はきっても切り離せないベストカップルだ)。注文する時、なぜか店員が「”小”じゃなくていいのか(僕が頼んだのは”中”サイズ)」と念を押すのが気になったが、むろんそのまま注文。”小”で満足すると思っていやがるのか、なんなら”大”でも良かったくらいだぜ。と内心思いながら、「まだあー」と腹ぺコの子供よろしくテーブルをドンドン叩き出したい気持ちを抑えて待つこと数分。僕の気持ちを見透かしたように待望の麻婆豆腐が一番乗りでやってくる。なにか想像していたよりでかい皿にのっているが、これは嬉しい誤算というやつだ。いざ行かん、快楽の極みへ。
「フガッ!!」「ゲホゲホッ」
それはそれは恐ろしく辛かったということじゃ。
(一口食べた後、それは豆腐が血の海に浮かんでいるようにしか見えなかった。その上にこれでもかと山椒がまぶしてある。赤い液体から豆腐を掬うように食べたがそれでも常軌を逸して辛かった。その血の海豆腐が優に二人前はある。他の料理も同様の量だ。その戦いに敗れた僕を想像するのは難しいことではないだろう。)