docta2003-10-27

ランズデール「ムーチョ・モージョ」読了。ISBN:4042701027

ジョー・ランズデールは天性のストーリー・テラーだ。そしてこの作品『ムーチョ・モージョ』を語るべくして生まれた。これはアガサ・クリスティさえもベッドの下にもぐりこませてしまいそうなミステリーだ。(ロバード・ブロック)

まだ一冊しか彼の本を読んでいないから、ランズデールが天性のストーリー・テラーかどうかは判断できないところだけど、クリスティはどうも思わないんじゃないのか。これ全く別物でしょう。ミステリっぽく作られてはいるけどそれが目的ではなくて、面白い話を描こうとしたらミステリになったというような。謎解きというのが醍醐味ではないもんねえ。僕が最も楽しめたのは、ハップとレナード、他のキャラクタたちの会話である。まあそれが一番わかりやすい特徴なんだろう。日本の小説だって会話が面白いというものはあるし(僕が好きなのは大体このタイプ)、アメリカじゃない海外の小説にもそういうのはあるんだろうけど、この作品にみられるようなふざけた感覚はなかなかないんじゃないだろうか。そういうやりとりはハリウッド映画でもよく見受けられるけど、2時間弱じゃそうそうそればかり詰め込むこともできないし、どうしたって展開重視に作られるわけだから、会話なんてアクセント程度にしかならない。お決まりのつまらないアクションやラブシーンを観るくらいなら会話だけのほうがよっぽどいいやと常々思っていたんだけど、ああ、それは小説で達成されていたのか。そんなわけで会話を楽しむにはもってこいの小説だが、全体としてそれほど面白いかというとどうかなという感じがする。薄いなという気がしないでもない。エンタテイメント映画の脚本のような薄さ。そういう手軽さがまた魅力なのだろうが、もっとなんとかなったんじゃないのと思わなくもない。いっそのこと展開を無視した会話だらけの作品を描いて欲しいくらいだが、はたしてそんなもの可能なんだろうかとしばし考える。

おれが買おうとしたような緑色のKマートのスーツを着た白人刑事が、ノートをとりながら、汗ばんだ禿頭にとまろうとしているハエと戦っていた。
「くそったれのハエだな」白人刑事がいった。
「ハエってのはクソのところに直行するもんだぜ。」黒人刑事がいった。
「なるほど。あんたのまわりに集まりそうなもんですがね」相棒がいい返した。